Takahashi Tsunemesa Office

Painter, Illustrator

1974 in Vienna and Hamburg, studied by Rudolf Hausner and Ernst Fuchs.(-’78)
1993 ‘Art Works by Tsunemasa Takahashi’ published by Tokuma-shoten

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色鉛筆とパステルの併用技法3

色鉛筆とパステルの併用技法

はじめのイメージはギリシャ神話のダフネからです。
まるでストーカーみたいになったアポロンに言い寄られて、それがいやで月桂樹になってしまうダフネという女性の話。
アポロンがストーカーみたいになったのはエロースをからかったのでいやがらせにうたれた金の矢のせい。ダフネは鉛の矢をうたれたのでアポロンが大嫌い。月桂樹になったダフネを見てアポロンは嘆き悲しむ。月桂樹で作った冠をつけて悲しみをいやす。というなんだかどうもという話。
これ木ではなく鳥になったらまた面白いかなと、ただそれだけの理由です。悲しい時は飛んでどこかにいきたい。羽が沢山欲しい。羽を沢山着いた頭のイメージがわいて、例のように浮世絵の大首絵のような絵にしてみます。
実をいうとさっきまで色鉛筆パステルで別の絵を描いていました。浮世絵からのイメージです。しかし完成半分くらいの所で大失敗に気付きました。破って捨ててもいいくらいの大失敗です。どう考えてもだめなのであきらめる事にしました。浮世絵はその平面性で実に手強い対象です。いずれ何かの事で触れてみたいです。失敗は刺激的。
そして前からあたためていたこちらのイメージに変更。羽を沢山着けた人物、あるいは羽のみのイメージ。僕のイメージファイルの中にだんだんたまってきているテーマです。レイヤー技法2のところで羽をしょった人物の絵を紹介しましたがあのイメージの仲間です。初めはこっちを描こうと思っていたので、敗者復活です。しかし悔しいなー。気をとりなおして。

さてこちらが下絵。
ちいさなエスキース。羽、飛ぶ、逃げる、悲しい、いろんなイメージがふわふわ浮いてきます。でも顔だけ。
あとで小さなイメージが加わるかな?

いつものように下絵の引き写しをします。あまり強く写すとあとで紙がへこんで白い線になるので注意。
引き写し後右下側からどんどん各位置にパステルで色をこすりこんでいきます。今回は小さい部分が多いのでティッシュよりも綿棒を多用しています。手の下にあて紙を置いて描き進めましょう。左上の方から始めるとせっかく写した線が手でこすれて消えてしまいます。これもひとつのコツです。フィキィサチーフはかけない。あとで消す事が出来ないから。

パステル段階。隣り合わせの色が多少重なっても気にしなくて大丈夫。むしろ響き合うのでいいことになる。
小さな部分は綿棒で。気になる部分は練りゴムで形を整えます。細部は気にしなくていいです。パステルを混ぜ合わせたり。部分的に重ねたり、色の変化はここでします。
色鉛筆は基本的に混色は難しい。出来るのは濃い薄いによるトーン変化です。
パステルで擦り込んだ部分と色鉛筆で塗り込む部分は同時並行的に進んでいます。パステルで擦り込んでは色鉛筆で描き込んで行く。そしてHBや2Hくらいの「鉛筆」で形を少しずつ決めていきます。

そして重要!白い色は「紙の白さ」をそのまま。白い部分は薄い色をパステルでつけて、あとは練り消しゴムを細く尖らして白い絵の具で描くように消します。レイヤー技法の白の絵の具の使い方を思い出して。

下絵の線が手でこすれて消えて行くので右下側からどんどん各位置にパステルで色をこすりこんでいきます。
これもひとつのコツですね。フィキィサチーフはかけない、消す事が出来ないので。

ここまできたらあとは色鉛筆でがしがし描き込んで行くだけ。
背景に散らばる白い小さな部分はタイプ用の字消しのステンシルや自分でトレペを切ってステンシルを作ったり制作途中の適当な時に練りゴムで消していきます。

ここでもうひとつのコツ。
図のように色鉛筆を持つ時は角度を一定の状態にキープして描きます。
先が減ってきてこういう形の状態で描くとムラがでにくくなります。まるくなったらすぐに鉛筆削り器等で削る。

色鉛筆をはなさないといけないとき。その握っていた位置、角度を覚えておきましょう。大きな面を描く時は同じ色を何本も先にとがらせておいてどんどん取り替えて行きます。画面に同じ密度をあたえるためです。横にもって軽くさらさらと描くような感じではこういうマチエールはでてこないので注意。手首も爪も痛んでくるけどなんだそのくらい!という覚悟でしっかり描きます。実を言うともう親指が痛い!としだなーほんとに。

部分的に「鉛筆」で影を描いています。鉛筆は終わりの方の段階で。濃さはHBから2Hくらいがいいです。初めに鉛筆を使うと色が濁るし、色鉛筆が滑るのでだめ。部分的に完成させながら「最後に鉛筆で締める」感じです。鉛筆を使う時はそっと。でないといきなり黒くなってしまう。デリケートに使う事。

ここまで描いて思い出しました。20年以上この技法を使ってなかったので忘れていました。色鉛筆は各社まったく性質が違っています。おそらく絵の具よりもっと個性的かもしれないです。違う色との重ね塗りが出来たり、できなかったり。堅いもの、柔らかいもの、発色が全く違うもの。数社の製品を使っていましたが自分にあう色はこの会社とか決めていました。その辺伝えるのは至難の業なので、読者はいろいろ試して下さい。

白い目のハイライトはカッターナイフで削ります。初めにぬったジェッソのおかげで削りやすい。誌面の都合上その他の小さなテクニックには触れませんが水彩絵の具や水だけをつかったりそのあとのパステルが面白い効果をだすなどいろいろ、実験してみて下さい。

完成。技法なんて根っこをつかめばあとは自分の方法を探す事が楽しみになる。いつも自分の描いている絵と話しているような感じで仕事をすると良いと思います。絵は絶えず話しかけてきます。「もっとここしっかり塗ってくれよとか。よくそんな程度でうまく行ったなんて思えるな」とか。「ここがかゆい、疲れたから適当でいいよ、へたくそ!」とか「悪魔のようなつぶやき」もする。しかし今回、失敗したほうの絵は「さあ行こう面白い絵になるぞ!」と言ってたのが途中の段階で「おれはもうだめだからもうやめる。あきらめろってば」と言い始めたのでした。いろいろあるなー絵を描いてるという事は。それにしてもこの技法は僕には年齢的にちょっときつい。