Takahashi Tsunemesa Office

Painter, Illustrator

1974 in Vienna and Hamburg, studied by Rudolf Hausner and Ernst Fuchs.(-’78)
1993 ‘Art Works by Tsunemasa Takahashi’ published by Tokuma-shoten

Email

info@takahashitsunemasa.com

色鉛筆とパステルの併用技法1

色鉛筆とパステルの併用技法

この色鉛筆技法は僕にはレイヤー技法とおなじくらい重要で多用してきた方法です。
普通、色鉛筆とかパステルは、淡い色調の優しいなんとなく女性的な画材という感じがします。色鉛筆は手軽だし、さっと描いてもいい感じになるような「気」もする。子供のときに買ってもらった36色セット、ノスタルジックで今思い出しても心ときめきます。しかしぼくの色鉛筆技法、(正しくはパステルも併用する)はかなり肉体的にハードです。イラストの仕事を始めてから10年くらいはこの技法ですべて描いていました。あげくの果てに手首の腱鞘炎と肩の痛み、指のたこ、爪も曲がって指先のしびれが酷くなって、やむを得ずアクリル絵の具で描き始めるようになり、いままで紹介したレイヤー技法に移行して行きました。ですからこれから紹介する色鉛筆技法はいまはほとんど使っていません。いつかまた復活させようとは思っているけど。

でもすごく有用な方法ですから是非経験してみて下さい。そもそもこの技法の始めは僕が考えだしたものではありません。昔ハンブルグの美術大学に聴講生でもぐりこんだとき、ドイツ人学生Rに教わりました。
こんなやりとり「おまえウィーンでフックスに混合技法おそわったんだって?」「うん」「興味あるからおれに教えろ、そしたらおれが考えだした、ちょーすごい秘密の技法をおしえてやる」「へー。いいよ」てな感じです。
絵の技法というのはごく簡単にトレードされる。どうやるのかさっぱり解らないものもあるし。意地の悪いラーメン屋の店長みたいにこれは秘密だと、さもたいそうな物のように振る舞う人たちもいます。
でも大事なのはやっぱり自分に合う技法をみつけだして使いこなす事です。それは描き続けて次から次とイメージを追い立てて行ける方法です。この方法で描けばあれも描きたいこれも描きたいと思える技法のことですね。

僕は絵の技法というのはコンピュータの公開された基本ソフトと考えます。隠したり秘密めかす事で何かが発展して行くとは思えない。どんな技法でも「その絵を描く人の絵」にしかならないし、技法自体が何かを生む訳ではない。描きたいイメージや発想の前輪があって技法の後輪が回り始める。イメージが技術を引きずり回すくらいの時が一番いい絵になる。昔混合技法を持って帰ってきたとき、簡単に人に教えちゃいかんというひとがいました。ぼくはそういう根性が気に入らない、「いいじゃんか」という気持ちでやってきました。

さて彼Rが見せてくれたのは色鉛筆で描いた濃密なフライドポテトの絵でした。紙の袋がケチャップで汚れてるのがよく描かれていた。彼は死体置き場の死体をこの方法で描いたり、パックに入った牛肉の固まりやヌードの自画像を描いたりしてなんだかすごかった。ドイツ人の絵描きはツァイヒナリッシュ(言ってしまえば再現的、リアルな)かマーラリッシュ(表現的なぺたぺた塗りの)という言葉をよくつかいます。彼のはごりごりのリアルでドローイング的な絵でした。ドイツの人たちはこの方向をすごく好みます。このRとはそのあとすごく仲良くなっていい時をすごしました。

ただ彼が言うほど。「ちょーすごい秘密の技法」というほどではなく。「パステルで先に色をこすりつけ、色鉛筆でがしがし描き込んでさらに鉛筆でもっと描き込んで行く」という実に単純な方法でした。しかしこの腕や手にきつい方法が僕にはどんぴしゃりとはまった。学校で混合技法で板に絵をかいて、家に帰ると机の上でこの色鉛筆技法で紙に描く。彼は僕の教えた混合技法をそのあと使うようなことはなかったみたいでした。テンペラ絵の具というのはヨーロッパではごく当たり前の方法で、なんだかピンとこなかったようでした。だからこちらはすごく得した気分です。

その後、帰国してこの方法をつづけました。イラストを始めた時も当然この色鉛筆技法でした。
混合技法のテンペラでは出版スケジュールに会わせるのは無理です。色鉛筆技法はそのあと自分でも工夫をするようになって、僕だけの方法も考えだすことになりました。今回は作品を見てもらう事と準備と初歩的なコツ等を紹介します。非常に単純です。次回もさらに続きます。

先ずは作品を見て下さい。これらは1978年頃からの作品です。デビューしたクロワッサン誌掲載等です。古いかもしれないけどまあ勘弁。この方法でピンクレディを描かされた事もあったし、、。色鉛筆の可能性が感じられてもらえばうれしいです。

・紙について、両面ケントのイラストボード。一ミリ厚程度、表面がつるつるのもの、あるいは超厚口のケント紙がいいです。分厚くて柔らかい紙やワトソンとかマーメイドや画用紙などのテクスチャーのあるものは全く向いていません。
昔はアメリカやドイツ製のイラストボードがあって紙にクレイ(粘土)分を含んでいて実に使いやすかったのですが今は見当たりません。その代わりに例に寄って薄い薄いジェッソの地塗りをする。水200ccに小さじで軽く一杯程度のジェッソ。広めの刷毛でさっと塗る。刷毛目は残さないようにてばやく。コツは何度もなでない事、塗ったら画面をたてるようにする。

・色鉛筆は上等の物を、混色は難しいのでできるだけ沢山色数を揃える。ステッドラーやカステル、ホルベインの物がいいです。あと芯の固い物があります。それもあると便利色をさらに突っ込んで行くときに固い方がいい。昔、夏はクーラーなぞなくて、仕事をしてると暑で芯が柔らかくなってぽきぽき折れる。これに悩まされて冷蔵庫に色鉛筆を入れてた。
しょっちゅう先を尖らせるので電気鉛筆削りがあると便利です。

・パステル、これも上等の物を。顔料がしっかり練り込まれているもの。
削って使うのでなかなか減らないので、いいものを。レンブラントやホルベインもいいです

・あとはティッシュペーパー、鉛筆各種、プラスティク消しゴム、練り消しゴム、パステルのぱれっとにするトレッシングペーパーくらいです。

では簡単な使い方を、といってもほんとにこれだけの技法です。あとは小さな工夫が沢山あるだけです。

ティッシュを三角に折る。トレペにパステルをナイフで削り落とします。それを三角折りのティッシュでひろって、画面に刷り込むようにこすりつける。先が三角なので小さい部分も刷り込める。ちょっと折り目をずらせば新しい白いティッシュになる。安い固いティッシュのほうがいいです。この方法に気付くのに数年!かかりました!!

このジェッソを塗った部分と塗らない部分の発色の違いがみえますか。写真ではわかりにくいでしょうが決定的に発色がちがいます。

このパステルの色面が底になってその上に色鉛筆で塗り込むように調子を描いて行く。パステルの層がないと色に底が出来ないので色鉛筆は紙の上をさらさらと軽く過ぎて行くだけになります。「連絡船」の絵の夜空や海の部分などはパステルの助けが無いと色鉛筆だけでは絶対に出せない色です。星等は消しゴムで消して白くするので字消し用のステンシルや図面用のアクリルの穴のあいた定規なども使います。

今回は簡単に葉っぱを描いて見ました。
パステルをこすりつけてその上から色鉛筆でぐいぐいと描く、(場合によって影を濃くする時は鉛筆を使う。これには使っていません)ただこれだけの技法です。ボードの下は固いほうがいいです。この葉っぱには数色の色鉛筆をつかっています。